本記事では、まず売上債権回転率の見方や計算方法などの基礎知識を解説し、その知識を元に株式投資へ売上債権回転率をどのように活かすのかを紹介します。
棚卸資産回転率は、経営の効率性や過剰在庫による経営リスクを予測するのに適した指標です。
その理由は、企業の営業活動では「仕入→販売→売上を回収」を行っており、この一連の回転率(=棚卸資産回転率)を見ることで企業業績や経営効率の良し悪しを知る参考になるからです。
やはり業績が好調な企業ほど仕入れた在庫(=棚卸資産)の販売が好調になるため、棚卸資産回転率は高くなる傾向にあります。このような企業は、収益性が高く、在庫を抱え込むリスクも低いと言えるでしょう。
逆に、棚卸資産回転率が低い企業は、仕入れた在庫が売れずに倉庫に残り続けるリスクがあり、その過剰在庫を起因とする資金繰りの悪化や管理コストの増加などが起きるため、投資先としてはリスクが高いと言えるでしょう。
棚卸資産回転率は「10回転は高いから良い企業、2回転は低いからダメな企業」とは一概には言えません。
棚卸資産回転率を見るときは、5〜10年の長期でトレンドを確認し、同業で同じくらいの規模感の企業と比較して判断しましょう。
仮に、家電量販店で比較する場合、ヤマダ電機とエディオン、ケーズデンキ、ビックカメラの棚卸資産回転率を比較するようなイメージですね。
とは言え、「過去10年間の棚卸資産回転率を調べるのも大変だし、同業他社の企業に何があるのか分からない」という人は、銘柄スカウターを使ってみると良いでしょう。
銘柄スカウターでは棚卸資産回転率の過去10年分の情報をラインチャートで確認することができるので、企業の経営効率や業績が良くなっているのか、もしくは悪くなっているのかが一目でわかります。
また、棚卸資産回転率に近い指標である総資産回転率や売上債権回転率、仕入債務回転率もグラフで確認できるので、一緒に見ておくと投資の参考になるでしょう。
そして、銘柄スカウターには同業他社を一覧表示する機能があるので、それほど銘柄に詳しくない人でも同業他社をすぐに表示して簡単に見比べることができます。
銘柄スカウターは、マネックス証券で口座開設すれば、すべての機能が無料で使えます。棚卸資産回転率をさくっと調べたい人は使ってみてもいいかもしれません。
棚卸資産回転率の基礎知識
棚卸資産回転率を見ると何が分かるのか
棚卸資産回転率は、企業がどれだけ効率的に在庫を販売しているかを示す指標です。
この指標を理解することで、企業の在庫管理の効率性や販売力を評価できます。
例えば、棚卸資産回転率が高い企業は、在庫がすぐに売れて現金化されるため、資金繰りが良好です。逆に、回転率が低い企業は在庫が滞留し、資金が固定されてしまいます。
したがって、棚卸資産回転率を把握することで、企業の経営効率や財務健全性をより深く理解することができます。
棚卸資産回転率は、企業の「在庫の健康診断」とも言えます。初心者でもこの基本を押さえれば、企業の実態をしっかりと把握できるようになりますよ。
棚卸資産回転率の計算方法
棚卸資産回転率は、企業がどれだけ効率的に在庫を販売しているかを示す指標です。計算方法は以下の通りです。
棚卸資産回転率=売上原価÷棚卸資産
具体的な手順:
1. 売上原価を求めます。これは、企業が商品を製造または仕入れるためにかかった費用です。
2. 棚卸資産を求めます。これは、期末時点での在庫の価値です。
3. 上記の計算式に当てはめて、棚卸資産回転率を算出します。
例えば、ある企業の年間売上原価が1,000万円で、期末の棚卸資産が200万円だった場合、棚卸資産回転率は以下のようになります。
棚卸資産回転率=1,000万円÷200万円=5
この場合、棚卸資産回転率は5回転となり、1年間で在庫が5回売れたことを意味します。
棚卸資産回転率を理解することで、企業の在庫管理の効率性や販売力を評価することができます。
棚卸資産回転率が高い3つのメリット
棚卸資産回転率の値が高いことには、いくつかのメリットがあります。以下に分かりやすく説明しますね。
棚卸資産回転率が高いメリット
1. 資金効率の向上 棚卸資産回転率が高い企業は、在庫が迅速に売れて現金化されるため、資金の流動性が高まります。これにより、他の投資や運転資金に充てることができ、経営の柔軟性が向上します。
2. 在庫管理の効率化 高い棚卸資産回転率は、在庫が滞留せずにスムーズに回転していることを示します。これにより、在庫の保管コストや劣化リスクが低減され、効率的な在庫管理が可能になります。
3. 販売力の証明 棚卸資産回転率が高いことは、商品が市場でよく売れていることを意味します。これは、企業の販売力やマーケティング戦略が成功している証拠となり、投資家にとっても魅力的なポイントです。
棚卸資産回転率が高いことは、企業の健全性や成長性を示す重要な指標です。
棚卸資産回転率が低い4つのデメリット
棚卸資産回転率の値が低いことには、いくつかのデメリットがあります。以下に分かりやすく説明しますね。
棚卸資産回転率が低いデメリット
1. 資金の固定化 棚卸資産回転率が低い企業は、在庫が長期間滞留していることを意味します。これにより、資金が在庫に固定され、他の投資や運転資金に回せなくなります。
2. 保管コストの増加 在庫が長期間保管されると、倉庫のスペースや管理費用が増加します。これにより、企業のコストが上昇し、利益率が低下する可能性があります。
3. 商品の劣化リスク 在庫が長期間滞留すると、商品の品質が劣化するリスクが高まります。特に食品や電子機器など、劣化しやすい商品を扱う企業にとっては大きな問題です。
4. 販売機会の損失 在庫が多すぎると、新しい商品を導入するスペースが不足し、販売機会を逃す可能性があります。これにより、競争力が低下するリスクもあります。
棚卸資産回転率が低いことは、企業の経営効率や財務健全性に悪影響を及ぼす可能性があります。
棚卸資産回転率を株式投資に活かす「3つの方法」
その1:同業他社と比較する
棚卸資産回転率を株式投資に活かす1つ目の方法は『同業他社と比較する』です。
気になる企業の棚卸資産回転率だけを見て高いか低いかを判断するのではなく、同じ業種かつ似たような規模感の企業と値を比較することが重要です。
その理由は、企業が属する業界や規模感によって棚卸資産回転率の水準が大きく異なるためです。
例えば、不動産業界に属する三井不動産や住友不動産、東急不動産の棚卸資産回転率は「1〜2回転」と低くなる一方で、卸売業に属する伊藤忠商事や三菱商事は「10〜12回転」と高くなります。
ちなみにZOZOTOWNを運営するZOZOだと、棚卸資産回転率は50〜70回転と高く、この水準の企業は自社で在庫をほとんど持たないビジネスモデルであるため、収益性が高くリスクも低いケースが多いです。
このように棚卸資産回転率は企業のビジネスモデルによって水準が大きく異なるため、同じセクターで同じくらいの規模感の企業と比較して経営の効率性を判断するようにしましょう。
その2:中長期トレンドを確認する
棚卸資産回転率を株式投資に活かす2つ目の方法は『中長期トレンドを確認する』です。
棚卸資産回転率は、1年だけの値を見て良いか悪いかを判断するのではなく、過去5〜10年のトレンドを見て値が改善傾向にあるのかを確認しましょう。
その理由は、棚卸資産回転率の長期的なトレンドで見ることで、その企業の経営効率が良くなっているのか(もしくは悪化しているのか)がわかるからです。
また、数年だけ値だけだと何かしらの特殊要因で、棚卸資産回転率の値がたまたま悪かっただけの可能性もあります。
例えば、乳製品専門商社であるラクトジャパンの棚卸資産回転率を見ると、2020年までは5〜6回転で推移していたものの、2021-2023年には3〜4回転と回転率が悪化していることがわかります。
これは一時的な特殊要因(むしろ戦略的)で、具体的には2020年コロナの影響で外食業や土産需要の減少で生乳が大量に余り、その生乳の廃棄を避けるために、賞味期限の長い脱脂粉乳やバターに加工して在庫として保有したことが原因です。
棚卸資産回転率は、2022年の3.56回転を底に2023年は3.98回転と回復の兆しがあります。2024年の業績を見る限りは、おそらくコロナ前の5回転に近い値に少しずつ戻っていく可能性が高そうですね。
ラクトジャパンのように棚卸資産回転率が下がった原因が一過性かつ戦略的な理由で、その在庫が将来的に在庫が売れる見通しがあるのであればそれほど大きな問題にはなりません。
ですが棚卸資産回転率が長年下がり続けており、抱えている在庫に売れる兆しが見えないような企業はリスクが高いので、投資対象から除外しておく方が無難と言えそうです。
その3:類似指標も合わせて確認する
棚卸資産回転率を株式投資に活かす3つ目の方法は『類似指標も合わせて確認する』です。
具体的には、総資産回転率や売上債権回転率、仕入債務回転率などの推移も一緒に確認しておきましょう。
その理由は、棚卸資産回転率だけで分かることには限界があり、その他の財務諸表も見て複合的に判断する必要があるからです。
例えば、総資産回転率では棚卸資産以外の資産も含めた経営効率を見ることができます。そして売上債権回転率では売り上げた後の売掛金や受取手形の回収にかかる期間が分かります。
いずれも1年間での回転回数が多いほど効率的かつリスクの低い経営ができている証拠なので、棚卸資産回転率と合わせてチェックしておくと良いでしょう。