本記事では、まず仕入債務回転率の見方や計算方法などの基礎知識を解説し、その知識を元に株式投資へ仕入債務回転率をどのように活かすのかを紹介します。
本記事の要点をまとめると、仕入債務回転率を見ることで経営のリスクを知るきっかけになります。
その理由は、仕入債務回転率が低くなっている企業は仕入先への支払いが滞っており、手元の現金が不足している可能性が高いからです。
例えば、商品の在庫を大量に仕入れたものの、その商品が思うように売れずに倉庫に積み上がっている企業があるとします。
このような状況では、商品在庫を仕入れたことで手元から現金がなくなってしまったことで、仕入れ先への支払いが滞り、仕入債務回転率の低下に繋がります。
もし銀行から融資を受けて仕入先へに支払うにしても融資に平均2〜4週間ほどかかるため、このパターンでも仕入債務回転率は低下します。
具体的には、これまでは商品を仕入れた2ヶ月後に品代を支払っていたものが3ヶ月、4ヶ月と長くなってしまい、この資金繰りの悪化が仕入債務回転率の低下としてあらわれるようなイメージです。
このように業績の悪化が仕入債務回転率に現れるケースもあれば、仕入債務回転率に変化が見られないケースもあります。
そのためイメージとしては、仕入債務回転率に変化が見られたら、業績や財務などをチェックしてその原因を調べるといった流れになりますね。
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仕入債務回転率
仕入債務回転率を見ると何が分かるのか
仕入債務回転率は、企業が仕入れた商品やサービスの代金をどれだけ早く支払っているかを示す指標です。
こちらを確認する理由は、仕入債務回転率を見ることで企業の資金繰りや支払い能力を高さ(信用力)が分かるからです。
例えば、仕入債務回転率が低い企業(=仕入後の支払いが遅い)には、下記の2つのケースが考えられます。
企業の資金繰りが苦しく、支払いが滞っている
企業間の取り決めで、期日が長く設定されている
その企業の業績が悪く、借金が多い企業であれば、基本的に「①」の可能性が高いと考えておくと無難でしょう。
もちろん仕入債務回転率だけで企業の経営状態がわかるわけではありませんが、経営状態を判断するヒントの1つになる指標です。
仕入債務回転率の計算方法
仕入債務回転率は、仕入債務と売上原価を下記の計算式に当てはめて計算します。
仕入債務回転率=売上原価 ÷ 平均仕入債務
仕入債務回転率の計算式で使う「平均仕入債務」とは、期首と期末の仕入債務の平均値です。
例えば、ある企業の年間売上原価が1,000万円で、期首と期末の平均仕入債務が200万円の場合、仕入債務回転率は次のように計算されます。
1,000万円÷200万円=5回転
仕入債務回転率は「10回転だから良い、もしくは2回転だから悪い」というように、回転率だけで良し悪しを決めることはできません。
例えば、日産自動車の仕入債務回転率を判断する場合、事業規模が大きなトヨタ自動車と比較したり、時価総額が同じくらいのスバルと比較するなど、同じ業種に属する企業と比較して相対的に良いのか悪いのかを判断してください。
仕入債務回転率が短い3つのメリット
仕入債務回転率が短いことには大きく3つのメリットがあり、下記の通りです。
仕入債務回転率が短い1つ目のメリットは、企業が仕入先に対して迅速に支払いを行っていることからり仕入先との信頼関係が強化され、将来的に有利な取引条件を得やすくなります。
2つ目は、支払いを早期に済ませることで購入価格の値引きを受けられる可能性です。商品や材料などを安く仕入れることで、他社よりも有利な価格で販売しつつもしっかりと利益を出すことができます。
3つ目は、仕入債務回転率が短い企業ほど企業の資金繰りが健全であるケースが多く、そのような財務が健全な企業は新たな投資や事業拡大に積極的に取り組むことができるため、成長がさらに加速する可能性が考えられます。
このよう仕入債務回転率が短い企業は、経営を有利に進められることから更なる成長が期待でき、財務面も健全であるため投資先としてのリスクも低いと判断できます。
仕入債務回転率が長い2つのデメリット
仕入債務回転率が長くなると大きく2つのデメリットがあります。
仕入債務回転率が長い1つ目のデメリットは、取引先との信頼関係が損われる可能性です。
なぜなら支払いまでの期間が長いことは、買い手としては手元資金に余裕ができてメリットになる一方で、売り手としては資金の回転が遅くなるデメリットがあるためです。
2つ目のデメリットは、企業の資金繰りが悪化して資金不足に陥っており、投資対象としてリスクが高い可能性です。
このような状況は、企業の信用力が大幅に低下するため、金融機関から融資を受けることもかなり難しくなったり、仮に融資を受けられたとしても条件的に不利な金利で利払い負担が大きくなる可能性も考えられます。
仕入債務回転率が長い原因が支払い遅延だった場合、仕入先から供給が停止されて、今まで通りの業務が行えなくなり、これが更なる業績の悪化につながるケースも考えられます。
企業が倒産する理由として、黒字倒産(一時的な資金繰りの悪化、)が約46%を占めていることもあり、仕入れ債務回転率やキャッシュフローに関する指標は必ずチェックしておきましょう。
仕入債務回転率を株式投資に活かす「3つの方法」
その1:同業他社で比較する
仕入債務回転率を株式投資に活かす1つ目の方法は『同業他社で比較する』です。
その理由は、企業が属する業種が変われば基準となる仕入債務回転率も大きく変わるからです。
例えば、トヨタ自動車だと5〜6回前後ですが、ヤマハ発動機だと10回前後、三井不動産だと10〜13回前後と、大きく異なります。
三井不動産が属する不動産セクターのライバル企業を確認すると、三菱地所や東急不動産の仕入債務回転率もほぼ同水準で推移していることから、三井不動産の10〜13回は業界平均と言えるでしょう。
このように銘柄が属するセクターのライバル企業の仕入債務回転率に対し、投資を検討している銘柄の仕入債務回転率が極端に低くないことを確認しておきましょう。
もし業界平均に対して極端に低いようならその企業の貸借対照表や決算短信、決算説明会資料などをチェックしてさらに深く調べるようにしましょう。
その2:業績の変化を一緒に確認する
仕入債務回転率を株式投資に活かす2つ目の方法は『業績の変化を一緒に確認する』です。
その理由は、仕入債務回転率が低下したタイミングとほぼ同時期に業績の悪化がみられた場合、その業績不振がきっかけで資金繰り悪化が起きている可能性が高いからです。
例えば、商品在庫を大量に仕入れたものの、当初の想定より売れ行きが悪かった場合、売上や利益は上がらずに手元に大量の在庫が残ります。
在庫の大量仕入れによって手元資金が減少してしまったため、仕入先への支払いが滞り、その結果 仕入債務回転率が低下するといったイメージです。
このように仕入債務回転率に加えて業績を見ることで、企業の財務面にどのような変化が起きているのかが何となくイメージできるようになるはずです。
その3:類似指標と合わせて比較する
仕入債務回転率を株式投資に活かす3つ目の方法は『類似指標と合わせて比較する』です。
その理由は、仕入債務回転率だけでは分かることに限界があることと、総資産回転率や売上債権回転率、棚卸資産回転率などの類似指標を併せて見ることで財務分析の解像度が高くなるからです。
例えば、仕入債務回転率の低下とともに売上債権回転率と棚卸資産回転率も低下している場合、取引先から売掛金の回収が進んでいなかったり、仕入れた在庫の販売が上手く進んでいなかったりする状況が思い浮かびます。
このように仕入債務回転率に加えて、経営に関わる複数の指標を確認することで企業が置かれている状況をイメージし易くなります。銘柄分析での見逃しを減らす、または財務分析を効率的に行うためにも複数の指標を確認しておくことがおすすめです。